ビジネスシーンでイノベーションを起こしている経営者たちと、
クリエイティブの世界でイノベーションを起こしてきた宮藤官九郎との異業種対談企画。

今回のゲスト

服部徳昭
株式会社ファインベーカリージャパン 代表取締役

服部徳昭HATTORI NORIAKI

1984年 北海道大学 経済学部経済学科卒業/日本生命保険相互会社 入社 不動産部・支社・営業部長歴任
2007年 株式会社ハットリコーポレーション設立
2009年 商号の変更 株式会社イーストタウン(2019年 閉鎖)
2011年 株式会社ファインベーカリージャパン設立

2021年10月3日(金)

ゲスト服部徳昭

TBSラジオで放送中の「宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど」。パーソナリティは、宮藤官九郎さん。

日本の経済を動かす経営者や団体の代表の方に、哲学や考えを聞きながら、知られざる業界の実情に迫っていく「Innovative Lounge」。

お迎えしたのは、株式会社ファインベーカリージャパン 代表取締役 服部徳昭さんです。

宮藤:ファインベーカリージャパンさんは、静岡市のパン屋さん。どういったパン屋さんなんでしょうか?

服部:移動パン屋です。車にパンを積んで2、30か所移動して販売していく。その車が今7台程あります。

宮藤:7台ということは、7人が車を運転しているんですか?

服部:そうですね。パン屋というよりはパンを売っている営業会社かもしれないですね。

宮藤:どこに何時に行けばパンが買えるってことを、消費者の人はわかっているってことだ。

服部:それでだんだん口コミでお客様を広げていったり、あるいは、小さい会社に行ったり。お昼休みや、残業しているところとか、おやつ用とか。いろんな需要がありますから。

宮藤:焼いているのはお店ですか?

服部:そうです。だいたい午後4~5時ぐらいから焼き始めて。で、23時ぐらいに出来上がります。

宮藤:夜中の?

服部:はい。それで、冷まして朝配達に行きます。だから、販売部隊と製造部隊が別なんです。

宮藤:販売は昼で、製造は夜に作って焼いているんですね。

服部:当初はお店に買いに来てくれちゃうお客様がいて、お店は閉まっているわけですよね(笑)販売と製造のスタッフが折り合うのは、だいたい販売スタッフが18時前後に帰ってきますから、その時に製造スタッフと顔が合う程度という感じです。

宮藤:じゃあ、会社は1日中稼働しているってことですね。

服部:そうです。とはいえ、製造スタッフの働く時間は8時間にも満たないし、そういう意味で優良企業かなと(笑)

宮藤:そうですね。

宮藤:いろいろ聞かれるとは思いますけど、新型コロナの影響は出ていますか?

服部:これがプラス・マイナス両面ありまして。販売に行く先が、老人ホームとか、幼稚園・保育園のような場合は、コロナで「来てくれるな」と。逆に、物を買いたくても店が無い人たちの集団。ここが増えてきています。

宮藤:そうか。出かけられない、ステイホームしている人たちが。

服部:そうです。なので、助成金を申請しようとした時に、非常にグレーな会社になって。デリバリーだよ、いやいやお店だよと。それで面倒くさいから「申請しません」と。あと、理由のもうひとつが、売上が下がってないので申請ができない。

宮藤:売れてるんですもんね。

服部:プラマイで上がっていると思います。微量ですけどね。

宮藤:経歴を拝見すると、服部さんご自身はパンとは関係ないところでお仕事をされていたと。どうしてパン屋さんをやることになったんですか?

服部:もともとファインベーカリーという移動パン屋があって、実を言うともう亡くなったんですけど、その社長が放蕩社長で。僕はそこのパンが好きで工場長も知っていたので、その時その工場長が来て、「半年給料もらってないんだ」「服部さんは昔、事業再生をやっていたから相談に来たんだ」と。「いやいや、経営者の側にいて方向性を決め、指導しての再生はやってたけど、自分ではやってないんだ。でもやってみるか…」ということで、2010年の年末に相談に来られて、2011年の1月に「ファインベーカリージャパン」という会社を設立しました。

宮藤:へえ。

服部:元の会社は負債が多かったんですけど、マイナスのM&Aみたいなものだと。自己投資はないけども借金から始まって。

宮藤:それは、たまたまパン屋さんだったからパン屋をやっているわけで?

服部:そうです。それともうひとつは、日銭の商売って1回やってみたかったんですよ。

宮藤:日銭の商売?

服部:毎日お金が入る商売。

宮藤:あ~。なるほど。今まではそうじゃなかったってことですね。

服部:今までは、某所で都市再開発とか事業再開発をやっていたので、プランニング図を何枚も書いて。それでやっと1枚が成就する。で、何か月後、あるいは数年後に何千万とか何億入るという、こういう仕事だったので。だから、日銭の商売って1回してみたかったんです(笑)

宮藤:そういう意味では原始的ですもんね。売ったものを売った分お金が入ってくるという。

服部:そうなんです。喫茶店でもよかったかもしれないし、レストランでも、それこそ本屋でもよかったかもしれないんですけど、移動パン屋っていうのはそのコンセプトが面白かったですよね。

宮藤:なるほどね。で、その借金を無くしたってことですよね?

服部:5年ぐらいかかるかなと思って、実際にはもうちょっとかかりましたけどね。今は黒字転換しています。

宮藤:すごいですね。事前のアンケートで「経営の苦労」について伺いましたが、「起業するのが高齢だといろいろ考えることがある」と。これはどういったことですか?

服部:企業再生をもともとやっていた時に、いくつかの課題のひとつが「65歳なんだけど、次の社長がいないんだよな」ってことで。「次がいないんだよな」と言いながら、業績のいい従業員55人の会社があると。

宮藤:大変ですね。社長いなくなっちゃうと。

服部:「後継者を育ててないのはあなたの責任でしょう?」って会長には言うんですけど(笑)で、僕が起業したのは50歳前後。その時にはもう次の社長を用意しておかないと、「お前、あれだけ文句言っておきながら、自分で用意してないじゃないか」という話になりますから。

宮藤:そもそも、起業してから軌道に乗るまで時間かかりますもんね。軌道に乗った時に次の社長がいないと。

服部:うちは従業員が十数名ですから、この人たちとそのご家族が路頭に迷うので。次の経営者を用意しないと。

宮藤:そんな服部さんですが、企業再生をしていく中で、感じることを教えていただけますでしょうか?

服部:宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど、目先の利益にとらわれすぎた事業とかビジネスが増えているような気がするんですよね。

宮藤:目先の利益っていうのは、どういうことですか?

服部:例えば、言葉を変えて、スピード感があるとかないとかっていう表現がありますけど。やっぱりビジネスの中で僕は「実業」が好きなんですよ。例えば、100円で株を買って300円で売って「儲かった!」と。それは違うだろうと。やっぱり、パンが40個売れたのが50個になって100個になって200個になって。5人の従業員が10人になって膨らむと。これが「実業」。どっちも正しいんですけれども、この「実業」を目指していかないと広がりがない。

宮藤:はい。

服部:例えば、今回のコロナ禍で「マスクが足りなくなるんだろうな」と思った人がいて、ガバっと仕入れて5倍ぐらいで売ったと。

宮藤:高く売って。

服部:それは否定しないけれども、「あなた、その次に何をやりたいの?」と。

宮藤:そうですね…。

服部:「儲かったらいい」。そりゃいいですよ。でも、その先に「これは続くから医療会社にどんどん出資をして、他に作らせよう」とか、そこまでいくのが「実業」なんじゃないの?と。

宮藤:あ~。マスクを売ることで終わらないで。

服部:はい。そこで終わらないで、こっちまで行けと。そうすると、マスクはもっと安くなるだろうし、別の必要なものが見えてくるだろうし、そこに余ったお金が投資できるだろうと。人生観として、フェラーリを買うのはひとつだろうけど、こっちじゃないの?と。

宮藤:うんうん。

服部:で、これは「スピード感」とか、そういう言葉じゃないんじゃないかなと。

宮藤:「スピード感」っていうのは、「あっ、今これが流行る」「今これが売れる。早くやろう」ってことですもんね。

服部:一過性のね。

宮藤:お話聞いていると、保守的って思われるかもしれないけど、そうじゃないですよね。

服部:その感覚こそが、次の新しいAIの世界においてもリモートワークの世界においてもしっかり活きてくるんじゃないかなと思います。

宮藤:服部さんは、どういう信念で企業再生に関わっているのでしょうか?

服部:「スピード感」とも関わるんですけれども。奇策じゃなくて、常識、良識に基づいて「王道を歩め」「王道をまず検討しろ」と。これが「実業」に活きるんですけどね。「保守的」とか「前例に従って行動する」と捉えられちゃう時があるんですけど。理屈と王道で考えて、それを追求したものは、意外と革新的だったりするので。「保守的」って思われる方々はそれは、「慣例的」なんだと気が付かないんですよね。

宮藤:うんうん。

服部:1+1が2なら、2+2は4、3+3は6だと。これはどこでも通用する理屈であって、これを突き詰めていけと。そうすると、しっかり人も動かせるし。王道に基づいてついてきたものは、ずっと続きますよ。

宮藤:なるほどね。

服部:王道を歩め、もう少し言うと、「きれいごとを徹底しろ」と。

宮藤:きれいごとを徹底する?

服部:はい。そうすると、脱税もなくなるし。

宮藤:それはそうですね(笑)

服部:「徹底しなさい」「儲け話だけに行くな」と。で、「儲け話に行ったら、それを活用する方法を考えろ。そうしたら、これが王道になるよ」と。

宮藤:そういう指導をされているということですね。あと、服部さんは「ワークライフバランス」ということにも積極的に取り組んでいらっしゃるんですね。

服部:従業員に優しい、時間に優しい商売をしたかったんです。土日は完全に休み、年末年始も休み、ゴールデンウイークも休み、夏季休暇もあるぞと。なぜならば、たぶん小学校・中学校のお母さん方がうちの会社で働くだろうから。そういうことで、土日祝日完全に休む、年末年始は10日前後、ゴールデンウイークもうまく利用して10日前後。当初、夏休みも30日にしたんですよ。

宮藤:ええっ!働き方忘れそうですけどね。

服部:そうそう。最初は2週間にしたんですよ。で、休み明けに出てきた人に聞いたんですよ。「どうだ?」と。そしたら、だいたい2週間休むと、1週間目ぼーっとして2週間目にあれだこれだやろうとして会社に行きますから、「少なかった」という答えが当然返ってくる(笑)

宮藤:2週間で?へえ。

服部:そこまで読めなくて。その「短かった」を聞いて、「よし、じゃ絶対来期は30日にするぞ」と。

宮藤:本当に30日休んでいるんですか?

服部:3期休んだんですよ。3期30日間を続けたんですが、お客様からありがたい電話が何本か入って、「いつ来るんだ!!!」と。

宮藤:ああ、パン?

服部:「いつまで休んでいるんだよ!!!」「つぶれたかと思ったじゃないかよ!!!」と。

宮藤:それはマズいですね。

服部:で、今は16日。でも、30日休んでいたことが忘れられなくて、ぶちぶち社員が文句を言う(笑)

宮藤:これ、言うのは簡単ですけど、実行されているのは大変なことだと思いますよ。お話、ありがとうございます。

服部:ありがとうございました。

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