ビジネスシーンでイノベーションを起こしている経営者たちと、
クリエイティブの世界でイノベーションを起こしてきた宮藤官九郎との異業種対談企画。

今回のゲスト

伊藤次郎
有限会社ojim 代表取締役

伊藤次郎ITO JIRO

1992年 杏林大学社会科学部卒
鉄筋工、松屋フーズを経て、眼鏡小売店アイロードに入社も、3年後にアイロードは倒産。倒産を契機に独立を目指して修行
2005年 吉祥寺にて眼鏡専門店オプテリアグラシアスを創業、プリズムレンズの効果にただただ驚き普及を目指す
2014年 オリジナルアイウェアブランド「レチルド」発表

2021年5月21日(金)

ゲスト伊藤次郎

TBSラジオで放送中の「宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど」。パーソナリティは、宮藤官九郎さん。

日本の経済を動かす経営者や団体の代表の方に、哲学や考えを聞きながら、知られざる業界の実情に迫っていく「Innovative Lounge」。

お迎えしたのは、有限会社ojim 代表取締役 伊藤次郎さんです。

宮藤:ojimさんは、どんな事業をされているのでしょうか?

伊藤:吉祥寺にあるメガネ屋です。普通に視力測定したりして、メガネを仕立ててエンドユーザーに売っているお店ですね。

宮藤:眼鏡専門店オプテリアグラシアス。お店の特徴はどんな感じなんでしょうか?

伊藤:斜視矯正や「斜位」っていう難しい言葉があるんですけど、斜視や斜位の矯正に「プリズム」という度数を加えた分野で、どちらかというと専門性なスタイルでやっています。聞いたことないでしょ?「プリズム」なんて。

宮藤:なんとなくはわかりますけど。三角形の?

伊藤:三角形の色が分光するものなんですけど。あれを使うと、目の筋肉を緩めてリラックスさせる効果があって。それを狙って目の筋肉から全身を緩めていきましょうと。それが、「RTM式眼鏡調整法」というものに繋がっていくんですけど。RTMの“R”が、リラックスの“R”なんです。「Relax」「Training」そして、「Master」と。「緩めて、鍛えて、使いこなす」という意味なんです。

宮藤:すごい。何でも聞いてみるもんですね。

伊藤:こういう変態みたいなことをやっているのは、うちぐらいだと思いますけど。

宮藤:そして、世界初の利き顔に合わせて提案出来るアイウェア「レチルド」。これは何ですか?

伊藤:僕がかけているのも「レチルド」なんですけど。

宮藤:はい、メガネのフレームの一部が、よーく見ると左右非対称になっていますね。

伊藤:例えば、宮藤さんのお顔を拝見すると、眉毛の高さがちょっと違ったり角度が違ったり、目の開きが違ったり。こういう時に普通のメガネをかけちゃうと、そのメガネが水平基準線ってものさしになっちゃうんです。

宮藤:そうか。よりズレて見えるんだ。

伊藤:そうです。それを僕は水平基準線を作らせないようにしたんですね。

宮藤:ああ。だから、メガネ自体が非対称なんですね。すごい。

伊藤:そうです。シーソーをイメージしてほしいんですけど、こっちが重たかったら反対側のほうに重りを乗せてバランスを取りますよね。これも、そのようにバランスを取りましょうっていう。そういう感覚です。

宮藤:それが「レチルド」。

伊藤:レチルド。また変態ですね。ここもね。

宮藤:大丈夫ですよ(笑)変態性を追求するコーナーじゃないので大丈夫ですよ。メガネ業界の変態(笑)

伊藤:メガネ業界の変態で…。

宮藤:お店構えがすごくオシャレじゃないですか。すごく個性的なお店の感じがするから、近くを通っても、まさかそんなにレンズとかメガネの利き顔にまでこだわっているお店だとは正直思ってなかったです。

伊藤:「入ってみたら意外と広いんだね」とか、そういう方もいっぱいいらっしゃいます。今来ている方って、例えば「斜視」で検索かけたり、すごく困った人たちが予約制の上で来てるんですね。お客さんも、北海道から沖縄まで全国から。中国から富裕層が通訳を引き連れてメガネ一本作りに来るとか。今はコロナで止まっちゃいましたけど、そんなことも起こっています。

宮藤:そうなんですか。今、プロフィールを拝見すると、「SS級認定 眼鏡士」「眼鏡評論家」とあって、とにかくメガネのプロなんですね。

伊藤:僕の知っているプロの人たちは、自分で自分のことを「プロ」って言わないんですよ。

宮藤:ああ、なるほどね。

伊藤:だから、僕も自分で「プロ」とは言いたくないんですけど、先程から言っている通り、「オタク」で「変態」です。メガネの(笑)

宮藤:とにかく、変態でありたい(笑)

伊藤:メガネ馬鹿だということですね。

宮藤:なぜ、そのような道に進まれたんですか?

伊藤:僕はもともと牛丼屋さんの店長をやっていたんですけど、そこでやっていた時にチェーン店の限界でチェーン店のチェーンオペレーションの原則って、出来る人は、出来ない人までレベルを下げて回すんですね。例えば、僕が最高の「いらっしゃいませ」を言ってしまうと、他の「いらっしゃいませ」が逆に霞んで見えちゃうから、僕は低い声で言わなければならなかったりとか。これは、わかりやすく言うとそうなんですけど。

宮藤:ええ。今のはすごくわかりやすい説明でした。

伊藤:そうすると、僕は僕のフルのサービスで伝えたい。僕の接客技術やお客様へのおもてなしっていうことをやりたいと思ったら、これチェーン店では無理だと。っていうので、「いつか独立したいな」と考えた時に、前の会社に引っこ抜かれたっていうのが。それがメガネ屋さんだったんですけどね。

宮藤:へえ。全く違う業界から行ったんですね。

伊藤:僕、建築→外食→メガネですから。根無し草もいいところで。

宮藤:メガネをやられてどれぐらいですか?

伊藤:20年です。僕はどこでも通用しなかったんですけど、メガネ業界に拾われたような感覚です。

宮藤:そんな、いろいろ情報を発信されている中で、最近では「視力測定は、どこでするのが良いのか?」ということについて、何か考えていらっしゃることがあるそうですね。

伊藤:そうなんです。僕はYouTubeをやっていて、そこでも同じようなコンテンツを配信したんですけど。これは私見であると理解してください。「眼科で検査をしたのに、メガネの仕上がりが悪かった」って嘆いている層が一定層いるんですよ。

宮藤:ありそう。うんうん。

伊藤:「メガネを仕立てる過程」っていうのは視力測定、あとはレンズを枠に入れ込む加工、そしてフィッティング。この3つをやって初めて道具として機能するんですね。だから、視力測定だけ一生懸命やったって、決していいメガネには仕上がらない。ただ眼科で視力測定をしたからって、いい処方箋をもらったからといって、いいメガネに仕上がるとは限らないのが1点。あと、もうひとつは、そもそもが眼科って、屈折矯正に精通している眼科医の方が圧倒的に少数派です。

宮藤:へえ。

伊藤:何しろ屈折矯正があまりにも診療報酬が低すぎるので、眼科医が積極的に取り組めなくなっちゃってるんですよ。だから、僕ら国民が処方箋を出すのに、例えば数千円じゃなくて一万円とか二万円とかを出す覚悟があるんだったら、それは眼科だって一生懸命やりますけれど。今は逆に、眼科が近視とか乱視とかの屈折矯正を一生懸命やっても、クリニック経営を圧迫しちゃうんです。そういう事情がある。じゃ、もし眼科の多くがダメだとしましょうか。そうすると、メガネ屋に行けばいいかというと、今、日本のメガネ業界って8割が大手量販店がシェア取ってるんです。

宮藤:なるほど。

伊藤:大手量販店は、基本ファーストフードだと思っています。そうすると、そこでちゃんとしたメガネが仕上がるのか?じゃ、どこに行ったらいいのか?わからないっていうのが現状ですよね。

宮藤:そういう問題なんですね。

伊藤:よくお客様に言われるのは、「だいたい、メガネなんてどこで作ったって一緒でしょ」って人が多いんです。

宮藤:そういう感覚がどうしてもありますよね。

伊藤:そういう人に対して、僕は「回転寿司と、銀座の一流の職人が握った寿司って一緒ですか?」って。

宮藤:違いますね。

伊藤:そういう世界が、実はメガネもあるんです。なのに、多くの人たちがこの一流の職人が作る寿司の世界をご存じなくて、富裕層も含めてそっちに流れているっていうのが現状です。

宮藤:もう、ちょっと、怖くてどこでもメガネ作れなくなる(笑)そんな話聞いちゃったら。

伊藤:中小零細のおっさんがやっているメガネ屋さんもあるじゃないですか。あそこに行けば絶対OKかって言ったら、それも嘘です。

宮藤:そういうわけでもないんだ。

伊藤:ないです。じゃ、百貨店に行けばいいのか。そこも嘘です。百貨店にも一流の職人はいる。だけど、多くの人はそこまでこだわってやってない。だから、どこのお店で、そして誰から買うかっていうことが。例えば、カリスマ美容師のように、髪の世界では当たり前に起こっているようなことをメガネ業界でも本来やるべきです。お店だけじゃなくて、誰に仕立ててもらうか。

宮藤:街にメガネ屋さんって多いじゃないですか。だけど、量販店が増えているってことなんですね。

伊藤:店舗数自体はそんなに変わってないんですよね。今、全国で12,000店舗ぐらいって言われていて、5,000店舗が量販店。で、8,000店舗が中小零細。この5,000店舗で8割シェア取ってて、8,000店舗で2割しか取ってない。

宮藤:ああ、それが問題なんだ。

伊藤:僕らは存在しないに等しいですよね。今、大手と中小零細で何が違うか。どうしてみんなが大手に行っているかというと、圧倒的な広報力の差ですよ。

宮藤:なるほど~。ここまで既に、たくさんお話を伺いましたけど、改めて、伊藤さんが感じる、メガネ業界の「ここを変えたい!」と思うことがあったら教えてください。

伊藤:宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど、メガネが低価格化していることで、レンズメーカーやお店のこだわりが消費者に全然伝わらない構造になってしまったんです。

宮藤:メガネってなんとなくフレームは気にするんですけど、レンズってメーカーがあるってことも知らなかったです。誰が作っているかも考えたことがなかったです。

伊藤:本当は、日本で言うとトップシェアを取っているのがHOYAとかNikonとかSEIKOとか東海とかカールツァイスとかいろいろあるんですけど。それらが、レンズメーカー個々に個性がある。

宮藤:個性があるんだ。

伊藤:あります。車のメーカーでも、得意分野が違うだろうし、日本酒だったら甘口、辛口。

宮藤:ありますよね。

伊藤:レンズもそうです。レンズで言うと、わかりやすいのが「ハード設計」「ソフト設計」って言うんですけど、ハード気味がいいかソフト気味がいいかっていうのは、趣味嗜好に合わせて、もしくは、生活習慣・パターンに合わせて提案するべきです。

宮藤:そんなに細分化しているんですね。

伊藤:そうなんです。今の段階ではお客様にその情報がリーチしていないので、お客様は選べないんですよ。でも、カメラの世界ではレンズって選びませんか?

宮藤:そうですよね。

伊藤:Nikonがいい、カールツァイスがいい、SIGMAがいいっていくらでもやってますよね。それは、写真という成果物を通して評価できているからなんですよ。でも、メガネって、成果物がない。自分の目を通した感覚を他人に見せられないでしょ。

宮藤:そうですね。もどかしいですね。

伊藤:そこが広がらない。だから僕ら専門家は、自分の目を通して使った感想を噛み砕いて、フィルターを通して伝える必要性があります。成果物がないんですよ。自分の目しか。

宮藤:確認できないですもんね。ここに「レンズの指名買いが増えて欲しい」って書いてあるんですけど、その文化はあまり無いですよね。

伊藤:レンズメーカーは今までBtoBのプロモーションマーケティングをしてきたんです。

宮藤:ああ、BtoB。

伊藤:それを、コンシューマーに届けるBtoCにしなきゃいけない。今、指名買いができる偏光レンズメーカーがあるんですが、そこは消費者に対してしっかりプロモーションをしていったんです。だから、大手レンズメーカーもしっかり消費者を動かすだけのプロモーション活動っていうのをしていただきたいっていうのが。

宮藤:へえ。

伊藤:そして、僕らは僕らで、その存在を伝えることが。レンズメーカーじゃなくて、小売店もやっぱりしっかりやるべきでしょうね。

宮藤:なるほどね。なかなか道のりは長そうですね。

伊藤:そうです。知ること、そして、伝えることを今、一生懸命やっています。

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