ビジネスシーンでイノベーションを起こしている経営者たちと、
クリエイティブの世界でイノベーションを起こしてきた宮藤官九郎との異業種対談企画。

今回のゲスト

杉浦日出夫SUGIURA HIDEO
カナダでの留学から帰国後、通信系の工事会社に勤務。
2000年 モルガンスタンレー証券にてデータセンターの通信網である各種配線設計・管理を担当。
2006年 株式会社RSIを設立。データセンターの設計、構築、運用など様々なコンサルティング事業に従事
カナダ・マギル(McGill)大学 MBA(経営学修士)卒業
ゲスト杉浦日出夫
TBSラジオで放送中の「宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど」。パーソナリティは、宮藤官九郎さん。
日本の経済を動かす経営者や団体の代表の方に、哲学や考えを聞きながら、知られざる業界の実情に迫っていく「Innovative Lounge」。
お迎えしたのは、株式会社RSI 代表取締役 杉浦日出夫さんです。

宮藤:株式会社RSIさんの事業内容を教えていただけますでしょうか?
杉浦:みなさん、インターネットとかスマホとかを当たり前のように使われていると思うのですが、その裏側はなかなか知られていません。そもそもインターネットって、どうやって作られているのか。このラジオ局もそうですが、放送を聴いていても実際にこの中でどうやって収録されているか、わかりにくいと思うのです。
宮藤:どう収録して、どういうシステムで耳に届いているか。わからないですよね。
杉浦:それと同じように、インターネットの裏側は誰かがやっているのです。簡単に言うとコンピューターがやっているのですけど。ただ、コンピューターは1人では動けないので、コンピューター専用の要塞のような建物があるのです。
宮藤:ええっ!
杉浦:「コンピューターのために作られた建物」っていうのがあるのです。
宮藤:例えばメールを送信して、そのメールが相手に届く間の作業をしてくれるってことですか?
杉浦:そうです。メールに限らず、インターネットのアプリ、ゲームとかも全部そうです。そういうものは全部コンピューターが一所懸命計算や処理をしているのです。
宮藤:そうですね。
杉浦:そういったコンピューターが、どこかにないとおかしいですよね。それらのコンピューターを扱っているところが「データセンター」という専用の建物になります。我が社は、そういったデータセンターを設計したり運用したりする会社です。
宮藤:コンピューターの要塞みたいな感じのところを。それは、都内にあるんですか?
杉浦:もちろん、都内にもあります。都内に限らず全国各地にありますし、世界中にあります。
宮藤:それは、どこにあるかは教えられない?
杉浦:世の中みなさんいい人であれば良いのですけれども。基本的には・・・
宮藤:いい人ばかりじゃないですもんね。
杉浦:最悪のことを考えると教えられないのです。まず看板も出してないですし、住所も表立って出てないです。
宮藤:ええっ、怖い話だな!
杉浦:扱っている情報がとても重要なものが含まれるからです。例えば「銀行」「証券会社の取引情報」とか。
宮藤:その建物を管理したり作ったり運用する事業ということですか?
杉浦:はい。
宮藤:めちゃめちゃ重要な仕事じゃないですか。
杉浦:セキュリティも大事ですが、骨が折れるのがいろんな種類のコンピューターに合わせた設計をすることです。データセンター内のコンピューターは、一般的に我々が使っているパソコンとはスケールも違います。 電気を大量に使ったり、またものすごく熱くなってしまうので特殊なエアコンが必要とか。
宮藤:我々が使っているパソコンって、すごく小さくてすごく便利ですが、そのでっかい要塞があるおかげってことですかね?
杉浦:そうです!でももちろん、毎年コンピューター自体のレベルが上がっています。我々が今持っているスマホも、数十年前であればNASAのスーパーコンピューターみたいなものです。
宮藤:データセンターの写真を見たら、昔よく見たSF映画の近未来の感じなんですよ。
杉浦:そうですね。スパイ映画とかで出てくるシーンの。
宮藤:何があるかわからないけど何かがあるシーン。
杉浦:そこに辿り着くまでにいろんな厳重なボディチェックをしたりとか、何層もある扉を抜けて…っていうのは合ってます。実際。
宮藤:本当なんだ?
杉浦:僕もそこに辿り着くまで7段階ぐらいセキュリティを抜けて行くところもあります。
宮藤:すごい。夢がある。
杉浦:場所によっては入る時は手ぶらでボディチェックも受けて。空港の検査じゃないですけども。
宮藤:トム・クルーズじゃないですか。
杉浦:本当にトム・クルーズのあのような感じです(笑)
宮藤:事前のアンケートに、「SF映画に出てくるようなAIやロボットと共存する未来のコンピューター社会を作っていくことに貢献したい」と書いてありますが、それは今の事業にはとどまらずということですか?
杉浦:そうですね。今はデータセンターと言っていますけど、この20年ぐらいでだいぶ変わってきているのです。これから毎年毎年そのスピードが速くなって、全ての業界がコンピューターと繋がる時代が来ると思うのです。今はデータセンタ―ってちょっと離れた場所でなじみがないですけど、それがもっと身近になる日が来ると思っていて。
宮藤:ほう。
杉浦:そうすると、「データセンターだからこれをやっています」というわけではなく、業界の垣根を超えたいろんな取り組みが必要だと思っています。そういう時は、いろんな会社とコラボレーションしながら新しいテクノロジーを生み出していきたいなと思っています。
宮藤:へえ…もう、ポカーンですね(笑)
杉浦:ちょっとイメージつきにくいですね。ただ、そういう時代が近く来るかと…。

宮藤:では、杉浦さんが、最近気になったニュースがあるということで。教えていただけますでしょうか?
杉浦:宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど、内閣府が打ち出した「ムーンショット計画」に注目しています。
宮藤:「ムーンショット計画」ってなんですか?
杉浦:コンピューターで計算される人工知能が人間を上回って、そのうち人間がロボットに支配される社会とか、映画でもそういうものがあるじゃないですか。その話とはシナリオが違うのですが、それに近いSF映画のような世界を真面目に日本の内閣府が考えているようです。具体的には2050年までに「人が身体、脳、時間、空間の制約から解放された社会を実現する」と。これもよくわからないです。マトリックスの世界じゃないですけど、身体がいらないみたいな感じをうけます。
宮藤:2050年、身体がいらない?まいったな~…。
杉浦:身体がいらなくて社会は機能するのか?と。どういうことかと思ったら、「代わりがいる」と。
宮藤:アバターってやつですね?
杉浦:そうです。アバター。要はロボットであったり自動化された社会になっていれば、今「リモートで家にこもる」みたいな感じですけど、社会はロボットが回してくれるみたいな。
宮藤:アバターが出勤するみたいな?
杉浦:はい。アバターが出勤。アバターが農業やって、アバターがモノを作って。で、「家にこもって仮想空間を見る」じゃないですけど。
宮藤:「やってるな、アバター」と。
杉浦:そうです。そういうのを、2050年までに内閣府が。やはり、これから人口が減って、労働人口をどうするか。生産性を上げるという意味で、危険な仕事や難しい仕事を、人の代わりにやるようですね。
宮藤:なるほどね。そういう使い方ならいいですよね。
杉浦:はい。悪用されちゃうとちょっと怖い社会ですけれども。
宮藤:なんか俺、今すんなり理解したみたいになってますけど、全然理解できてないですけどね(笑)資料を見ると、身体的能力、知能的能力及び知覚能力を拡張した別人を一人で10体以上のアバターを操れる世の中になる…と?
杉浦:いいように使えれば、すばらしい社会ができると思うんですけれども。
宮藤:そうですね。僕のアバターが5、6人いたらすごい楽ですけどね。
杉浦:そうですね。内閣府の説明のイラストの中で気になるのは、人とロボットが若干、一緒になっているっぽいのもあるんですよ。ただ一応それは、重たい物を持つ時に補助スーツみたいなのを着て。それこそ、なんとかテクニカルスーツみたいな変身モノじゃないですけど。
宮藤:パシフィックリムみたいな感じですね?
杉浦:はい。そうすれば、今の力以上の物を持ち上げられるとか。
宮藤:すごいな。2050年。
杉浦:そうですね。僕もその頃は何歳になっているんだって感じですけど。30年後なので、だいぶ歳いって身体が。
宮藤:僕は80歳か。
杉浦:ただ、その時に新しいロボットみたいなスーツを着て、それで今と同じか、もっと動ける身体になっているかも。
宮藤:すごいこと考えてますね~。その他、「業界のここが問題だ」と思うことが「環境問題」と書いてありますが、これはどういうことですか?
杉浦:結局コンピューターがどうやって動いているかというと、常に電気がないといけないじゃないですか。
宮藤:そうですね。
杉浦:コンピューターの量は年々増え続けているんですね。今いろんな環境問題ってあるじゃないですか。我々の社会の中では「省エネ」ということで、例えば「設定温度を下げて夏でもクーラーを少し弱めにしよう」とか、「ここは歩いて済ませよう」とか、いろんな取り組みがあるんですけど、コンピューターは容赦なく電気を使い続けて、それが増え続けているんですね。
宮藤:はい。
杉浦:コンピューターを動かす電気は「仕方ないか」と思うところもあるんですけど、実はあわせて膨大な量の「空調設備」が必要なのです。
宮藤:なるほど。
杉浦:携帯電話やパソコンでも、熱くなるとちょっと暴走したりフリーズしちゃうような感じで、データセンターのコンピューターも熱で止まってしまします。そうならないように空調設備が必要ですが、実はデータセンター内ではコンピューターと同じぐらい電気を使ってしまうのです。
宮藤:データセンターのコンピューターを冷やすための空調?
杉浦:そうです。データセンターの電気を節約しようと空調を止めると、止めたら今度はコンピューターが壊れちゃう。コンピューターは常に動き続けているし、冷やすことも同じように動かしつづけないといけない。それを解決しようというのでうちが取り組んでいるのが、「そもそも、空調機がいらないコンピューターを作ろう」と。
宮藤:お~。どうするんですか?
杉浦:コンピューターが熱くなったら、液体の中に突っ込んじゃおうと。
宮藤:ええっ!?
杉浦:普通にやったら壊れちゃうんですが。
宮藤:水風呂みたいな?
杉浦:そうです。「暑いときに扇風機かうちわで扇ぐ代わりに水風呂に入ったらいいじゃないか」という発想で、それをコンピューターにもやってみようと。
宮藤:なるほど。濡れちゃうのは大丈夫なんですか?
杉浦:携帯電話が水没したら壊れるのと同じで普通の水にやったらダメですが、我々は特殊な液体を使っているので、そこに入れれば大丈夫です。水風呂じゃないですけど、そんな感じでコンピューターをドボンとつけて。
宮藤:特殊な液体?
杉浦:特殊な液体です。そうすると、基本的には空調がいらなくなるのです。簡単に言うと。ですので、先程言った「データセンター内で電気をすごい使っている」という空調は、いったん忘れていいというもので。
宮藤:データセンターの電気代が半分になる、みたいな?
杉浦:そうです。電気代が半分に。そんな感じですね。
宮藤:いやー、想像していない話ばかりで。すごいですね。
杉浦:でも、コンピューターの進化で社会を豊かにしなきゃいけないと思っていて、そのひとつが医療や製薬業界です。コンピューターの技術が進むといろんなシミュレーションとか計算処理で「これとこれだったらうまくいく」みたいなのがだんだんスピードアップされて、新薬とかが出てくるはずですよ。
宮藤:なるほど。
杉浦:コンピューターの恩恵を受けられるところ更に多くあると思います。目指すところは「人が病気から解放される」。不老不死じゃないですけど、コンピューターを活用して全てのウイルスに対する対策を得るというのも大きな目標でもあると思います。
宮藤:今日はすごい話聞いちゃったな。これ、人に話していいですか?
杉浦:大丈夫ですよ(笑)
